『男と女の価値観の違い』という欺瞞

『食器を流しに置きっぱなしにしたら、妻が出て行った。僕が学んだこと』

という昔の記事を目にする。

彼は「学んだ」と言っているが、何一つ学んでなどいない。

彼は、妻が『女』であるが故の行動であるかの様に考えていて、その記事に対するコメントにも、男と女の価値観の違いの様な事が書かれていた。



記事には、

何かをしてと言うのはとても疲れると、妻はよく言っていた。

それに対して、彼は

「何をしてほしいか言ってくれれば、喜んでやるよ」

と答えている。

彼はこうも言っている。

離婚したいと思うのは、夫が自分を尊敬しなかったり、感謝しなかったりしていると感じるからだ。


彼の妻は、彼からの「尊敬や感謝」を求めていた訳では無い。それ以前の問題だ。



洗脳されている人間は、自分が洗脳されている と自覚する事が出来無い。


ほとんど全ての人間は、

『男は(外で)仕事をし、女は家で家事をする』

という状態が、当たり前で正解(正常)だと、当たり前に信じ込んでいる。


いちいち男と女で考えるから、問題の本質が見えなくなる。

『これ』が、同性で対等な関係だったらどうだろうか?


あなたは仲の良い友達と、一緒に暮らす事になりました。

その友達とは、長い付き合いで、お互いに信頼し合っています。


しかし、その友達は「家事のほとんど全て」をあなたにやらせます。

そして『その事』に対して、一切の罪悪感など感じていません。


あなたがどんなに疲れていても、当たり前の様に、流し台に(使い終わった)食器を放置します。


あなたが仕事で疲れて帰ってきても、その友達はTVを見ながら、

『(夕食の準備は)ゆっくりでいいよ』

と、(優しい自分に酔い痴れながら)笑顔で話しかけてきます。


あなたが家事をしている間、その友達は基本 TVを見ていたり、マンガや雑誌、新聞なんかを読んでいたり、楽しそうに過ごしています。


そして、暇を持て余したその友達は、月に数回

「手伝おうか?」

と、(気が利く自分に酔い痴れながら)提案してきます。

毎日 家事をしているあなたから見れば、お粗末で粗雑な仕事(家事)をした後、満足そうな顔をしています。 「(あなたを)大切にしてあげた」と。


ゴミを出してあげた
食器を洗ってあげた
洗濯物を畳んであげた
掃除をしてあげた
料理をしてあげた
子供の面倒をみてあげた


自分の家の事なのに‥‥

家事とは手伝うものではなく、当たり前にやるものだ。


友達は、自分が傲慢な人間などとは微塵も感じていません。

自分は謙虚で気が利く良き(善き)友人である。と自信満々に自負しています。


あなたは、その友達と いつまで一緒に暮らす事が出来るでしょうか?




『男と女の価値観の違い』とは、思考を放棄(回避)する為の言い訳に過ぎない。

男と女は違う生き物だから理解出来無いのだ。と言い訳をして、煩わしい思考をしたくないだけ。


彼のものの見方は、

妻では無く「奴隷」だ。

対等では無く圧倒的に見下している。

彼は

『自分は妻を対等に扱ってあげている』

と自負している。しかし『それ』が全く対等な関係ではないと彼(ほとんどの人間)は気付く事が出来無い。

彼は、

『彼女(妻)は、俺の稼いだ金で生活している分際で、図々しくも 俺に「尊敬と感謝」を求める傲慢な女だ!!』

と言っている訳だ。

何度も言うが、彼に『その自覚』は全く無い。


本当の彼は、

謙虚な自分を演出しながら、ただ妻を尊敬・感謝してあげられなかった、努力が足らなかった、と必死に自己弁護しながら、暗に彼女を責め、自分は被害者である。

と主張している。



例えば、

男女(先輩後輩・上司部下)で食事に行き、男(先輩・上司)が支払いをしようとした時、財布すら出さない女(後輩・部下)は論外だ。

という様な話を、誰しも耳にした事があるだろう。それを経験した人間もいるだろう。


彼は、その「財布すら出さない女(後輩・部下)」だ。


食事の後、テーブルの上に食器を放置する。或いは、流し台に食器を運びはするが、そこに放置する。

服を脱いで、洗濯をしない。

家が汚れていても、掃除をしない。

夜中に子供が泣いても面倒を見ず、寝たふりをする。


やって(奢って)もらって当たり前。



例えば、彼女と食事をし、食器を流し台に運び、いざ洗おうとした時、

彼女に「私が洗うからいいわ」と提案された時、

それに対して

「いや いいよ。君はゆっくりしているといい」

と答える事も出来たし、

「そう?じゃあ頼むよ。ありがとう」

と感謝する事も出来た。この感謝は「感謝してあげた」では無く、ごく普通の自然な感謝だ。


しかし、彼の思考に『その選択肢』は存在していない。彼の中(思考範囲)では、妻が家事をやる事は、考えるまでもなく当たり前で当然の事なのだ。



彼は、

周りから評価され、男としての自尊心・虚栄心を満たしてくれる仕事はバリバリこなしたいが、

周りから評価され無い家事は、出来るだけ(一切)したくない。
(それどころか、自分(夫)が家事をすると自分(男)の評価が下がるとさえ感じているだろう。彼にとって、家事とは手伝うものであり、それは自分の自尊心を満たす為の行為でしかない)


自分は仕事をし、妻は家事をする。

それは彼にとって、一番楽で、一番都合の良い形態だ。

そこに彼女の意思は存在しない。彼の中で彼女は『家事をしてくれる道具』に過ぎない。

彼の頭の中にあるのは、自分の事だけだ。

しかし彼にその自覚は全く無い。



男が女性の分の支払いをしようとした時、

女性は

「男が虚栄心を満たす為に必要な行動なのだろう」

と察して、男を立てる為に奢らせてくれている訳だが、

精神的に未成熟な人間は、他人の心情を理解するという能力が極端に低く、相手の心情を察する事が出来ず、

「自分が奢って(金を払って)やった」

と、傲慢さと優越感に浸る。

(「何かをしてやった」という思考は、簡単に「これくらいなら許される筈だ」という 図々しさ 傲慢さ に変わってしまう。

しかし ほとんどの人間は、自分の思考が どうやって成り立っているのか全く見る事が出来ず、自覚する事も無い)


例えば、あなたが友達と遊びに行った時、その友達は

「あなたと遊んであげた」

と感じていたらどうだろうか?

それが態度に出ていたら?

あなたはその人間を友達だと感じる事が出来るだろうか?



さらに彼は「男の功績」なるものを主張し、自分の手柄でもあるかの様に誇り、男である自分を尊敬しろと要求しているが、

あれらは、「人類の功績、または生物全体の功績」であって、男の功績では無い。

他人の功績に寄生してまで自分を大きく見せ掛け、自己満足に浸るあたり 彼の幼稚さ能力の低さが露呈している。

が、彼は未成熟であるが故に全く自覚する事が出来ていない。



おそらく彼は これから先、また恋愛をし、結婚し、同じ事を繰り返す事になる。問題自体が彼には全く見えていないのだから。

その問題とは、彼の意識の根底に巣くう『女性蔑視』。そして、そこから生み出される『優越感依存』。

これは彼(男)だけの問題では無く、ほぼ全ての人間が抱えている病でもある。